加瀬:当会は福島第一原発の事故を契機に、渡部昇一先生が会長、私が副会長として発足し、その後一般社団法人となりました。代表理事の渡部先生がご逝去されたために、私が代表理事(会長)を引き受けました。当時の菅直人民主党政権は、周辺20キロの住民を強制的に避難させ、全ての原発を稼働停止しました。これに対して私たちは科学的な根拠に立って、「低線量放射線は健康被害をもたらさない」「強制避難も原発稼働停止も必要ない」と訴えてきました。元谷代表もまったく同じ主張をAPAの月刊誌『Apple Town』で展開してこられた、まさに同志です。
元谷:公益財団法人アパ日本再興財団が行っている「真の近現代史観」懸賞論文で、第四回の最優秀賞を獲得したのは、当時札幌医科大教授だった高田純さんです。
加瀬:高田先生は当社団法人の理事です。
元谷:メディアは放射能の危険を煽る報道を繰り返す一方で、頻繁に許可を得て立ち入り禁止区域に入っているのです。高田さんは放射能の専門家として、研究のために現地に入りたいと言っても福島原発の立ち入り禁止区域に入れない。本来は学問的に放射能の調査・研究をするべきなのに対応が間違っています。
加瀬:原発事故が起こった時は「もう東日本に人が住めない」と叫ぶ専門家もいました。だが、私はそんなことには絶対にならないと言っていました。広島に原爆が投下されましたが、人々は翌日から爆心地に入っていた。オバマ大統領が来日し広島平和公園を訪れた時に、坪井直・原水爆被害者団体協議会代表委員が面会しましたが、当時96歳で矍鑠としてお元気でした。坪井氏は被爆地から1.5キロの地点で、通学中に被曝されています。私はこれまで70回以上も講演のために広島を訪れました。被爆者の方に何人もお会いしましたが、皆さんお元気でした。2015年の統計では、18万4千人の被爆者のがん死亡率は一般国民より低く、平均寿命が88歳でした。これは日本の男性80歳、女性86歳という平均寿命と較べて長命ということです。
元谷:「反核」運動をしている人たちは、どう思っているのでしょうかね。そもそも東日本大震災で多くの方が犠牲になりましたが、その原因は津波です。放射能で亡くなった方は、いまに至ってもたった一人もいません。
加瀬:最新の科学的な検証によって、低線量放射線は健康に害をもたらすどころか、むしろ「ホルミシス効果」といって健康に良い影響を与えるということがわかってきた。当会はそうした放射線の正しい知識を、世に広めてゆかなくてはならないという使命感から生まれたのです。

もともと自然界にある放射線。
ゼロが安全という誤った主張をゴリ押しするのは疑問だ


元谷
:素晴らしいことですね。どんな活動をしておられるのですか。
加瀬:この10年間でも3度、海外から識者を招いて国際会議を開催するかたわら、毎年シンポジウムを憲政記念館などで開催しています。このニューズレターを国会議員や地方議員に配布し、正しい政策を実施してもらえるよう働きかけています。また、会員有志の中には東京電力の株主となって、株主総会で「反核」勢力が総会の議決に不当な影響を与えようとするのに、対抗したりしています。2013年に私たちの同志の国会議員が平沼赳夫先生を会長に「放射線の影響を科学的に検証する議員連盟(放射線議連)」を立ち上げ、当時の民主党政権による科学的根拠を無視した政策に国会で対峙しました。自民党が与党に返り咲いた2013年3月13日の衆議院予算委員会では、同志の西田譲議員が安倍首相に対し「低放射線セシウムは科学的根拠に照らして無害であり、民主党政権の住民避難措置は憲法違反の疑いがある」と、訴えました。
元谷:確か、その質問を受けて高田純先生が4月5日の衆議院予算委員会に参考人として出席したのでしたね。
加瀬:はい。高田先生は「成人1人からは、体内のカリウム等から約4千ベクレルの放射線が発せられているので、100名ほどいるこの予算委員会室は、40万ベクレルの放射線の中にいる。自然界は放射線がゼロの世界ではない」「放射線量をゼロに近づけるべきだ」という誤った主張に反駁しました。
元谷:国立がん研究センターは、「放射線と生活習慣によってがんになるリスク」というデータを紹介しています。これによると放射線の線量(ミリシーベルト/ 短時間1回)が100~200は、野菜不足と同等。200~500は、運動不足、肥満。500~1000が大量飲酒(毎日2合以上)。1000~2000が喫煙者、大量飲酒(毎日3合以上)となっています。放射線を浴びることによる「発がんのリスク」は、生活習慣と比較するとその程度だということがわかります。
加瀬:当会のニューズレターでは何度も紹介していますが、いまの国際的な放射線の「定説」は、LNTモデルに準拠しています。LNTモデルは放射線は高線量になるほどがんが発生し、それは直線で比例関係にあり、「閾値」はないというものです。ところが我々の同志である科学者たちは、「LNTモデルは間違っている」と主張しています。簡単に言うと、100ミリシーベルト以下というような低線量では、放射線を浴びると逆にがんが減る。つまり「比例」しない結果が出てきているのです。LNTモデルは高線量での相関については実験の裏付けがあるのですが、低線量については実験をせずに、推定していたのです。そのため「あらら(ALARA)」=As Low As Reasonably Achievable =「放射線は『測定できる限り低い(ALARA)』ほうが安全」という「神話」が広まってしまったのです。

福島原発災害での死亡者はゼロ、
菅直人首相の強制避難指示による死者は3800人


元谷:全く科学的な根拠がないにも関わらず、菅直人首相は「強制避難」を実行したということですね。年間100ミリシーベルト以下の低線量放射線であれば、健康に被害がないのに、被曝量が年間20ミリシーベルトという低すぎる基準によって、強制避難は行われてしまった。福島原発での死者は放射能による死者がいなかったにも関わらず、福島県だけでも2千人もの「震災関連死」が出てしまっています。年配の方や病院の重篤な患者まで強制避難させ、移動中に亡くなるなど痛ましい例も数多い。これは民主党政権の政策判断のミスでしょう。
加瀬:その通りですね。菅直人首相の決断は万死に値します。「震災関連死」で亡くなられた方は、被災地全体では3800人に及びます。この死は、地震や津波の天災によってもたらされたのではない。必要のない「強制避難」という誤った政治決断によってもたらされた。「強制避難」をしなければ、この方々は原発事故があっても生きていられた方が多いでしょう。放射能では1人の犠牲者も出ていないのです。
元谷:日本の自然放射能被曝線量は、平均2.1ミリシーベルトで、1ミリシーベルトを超えた所を除染するという基準も全くおかしい。世界を見渡すと、自然放射線の線量の高い地域もあり、例えばイランのラムサールでは、年間平均10.2ミリシーベルト(最高は260ミリシーベルト)にも及ぶ放射線の下で3万人が暮らしています。この地域の人々は長寿で知られている。また、ブラジルのガラパリも5.5ミリシーベルトですが、人々は健康に暮らしている。国際線のパイロットやCAも放射線量は高いし、宇宙飛行士もそうです。しかし彼らがそうした職業によって、ガンで亡くなる確率が高くなったということは聞いていない。
加瀬:「震災関連死」で亡くなられた方々は、菅直人首相の無知に発した決断によって殺されたようなものです。福島第一原発が事故を起こしても、強制避難が行われなければ、犠牲者はまったく出ていなかった。東京電力に対する裁判が行われていますが、犠牲者や被害者を出した最大の原因は、菅直人首相と民主党の政治判断が間違っていたことです。この点が全く追求されていないのは、不思議というか。「反核」グループの訴えが、いかに偏向しているかを露わにしています。誤った判断をつづけ誤った指示を出しつづけた民主党政権。そのツケは今も正せないでいる…。

元谷:民主党、そして当時の菅直人首相の判断の誤りは、他にもあります。初期段階で菅首相が現地調査を行ったためにベント(内部の気体を排出し圧力を降下させること)が遅れ、高温下で燃料皮膜のジュルコニウムが水と酸化還元反応を起こして、水素が建屋に溜まってしまった。一号機、三号機、四号機と続けざまに起こった原発建屋の水素爆発も、例えば自衛隊にお願いしてヘリコプターから銃撃するなどして建屋の天井に穴を開ければ、空気より軽い水素はそこから逃げて爆発を防げたでしょう。まあ、放射能の拡散をためらったのかもしれませんが、結果的には爆発で放射能をさらに飛散させてしまった。
加瀬:除染も全く税金の無駄遣いでした。そもそも広島も長崎も除染なんかしていないのですよ。それなのに、除染のために巨額の税金が湯水のごとく使われた。
菅直人首相はさらに、法的根拠が全くないのに、中部電力の浜岡原発を停止させた。そのことが全国に波及して、日本中の原発が稼働を停止してしまいました。民主党政権は「CO2削減」とか「カーボン・ゼロ」とか一方で言っているのに、平然と原発を停止させ、火力発電によって原発を補った。このことで、年間4兆円も余分に海外へ石油代を払わなくてはならなくなった。
元谷:アメリカなどの石油メジャーは、日本への輸出を増加させて多額の利益を得ています。アメリカは1990年代からシェールオイルの開発によって石油輸入国から輸出国へと転換してきた。このため世界の石油供給がだぶついて、石油メジャーは大口の需要先を求めていた。そんな時に、日本は全ての原発を止め、石油を買わざるを得ない状況になっていた。まるで「ネギ鴨」のような状況です。

ゼロリスクを原発行政に求めるのは明らかに異常
世界の実状から乖離しつづける日本


加瀬:原発を再稼働させないことは、国益に反しています。関西電力の高浜原発の三・四号機の再稼働を福井地裁が差し止めたことがありましたが、とんでもないことですね。樋口英明という裁判長のようですが、「原子力規制委員会が策定した新規制基準は緩やかにすぎて合理性を欠き、適合しても安全性は確保されていない」というのです。この裁判長はどうしてそんな判断ができるのですかね。原子力規制委員会の新基準というのは、福島第一原発の事故を受けて施行されたものです。
元谷:これについては、読売新聞が「科学的知見を否定」「『絶対安全 結論ありき』識者批判」と題して、この仮処分を批判していました。樋口裁判長は、原発に絶対の安全性を求める『ゼロリスク』を基準にしているのですが、ものごとに100%安全ということはない。福島第一原発も千年に一度という大地震には耐えた。しかし津波で電気系統が浸水し、電源を失った原子炉が冷却できなくなった。この教訓を十分に反映した安全基準をも否定して、『ゼロリスク』を原発に求めるのは異常です。過剰なリスク対応に縛られて、原発を再稼働させることで日本が得られる国益を著しく棄損しています。
加瀬:原発が稼働停止となった理由は、「原発が危険だ」というのが理由でしょうが、東北の千年に一度といわれた大地震でも原発は無事だった。電源設備が津波によって浸水し冷却ができなくなったことが事故の原因ですが、これは今後の対策は可能でしょう。福島第一原発に近い日本製の女川原発は地震に耐え、むしろ多くの人が原発に避難することで津波から救われたのです。『ゼロリスク』を原発だけに適用して、最も安定的な電力供給源を運用しないことは愚の骨頂です。日本は資源小国ですから、エネルギーの安全保障の観点からも、原発という選択肢があることが日本の平和と安全に寄与するのです。

日本製の原発の安全性は実証されている
資源リスクの安全保障にも原発再稼働が最優先


元谷:先の大戦でも石油を断たれたことが、開戦への大きな要因のひとつでした。石油が何らかの理由で断たれたり、高騰して経済に大きな負荷をもたらす事態が起こるリスクもあります。そんな時に原発によるエネルギーの供給は国民の運命を左右するでしょう。いまの日本の原発停止の背景には、石油メジャーが保有するサウジアラビアの石油がだぶつき気味だったので、それを日本に買わせようとしたとか、アメリカ、フランス、中国などの核保有国が「東京が危ない」と放射能の不安を煽って、全ての原発を止めて、石油を買わざるを得ないように仕向けた謀略だという見解もあります。
加瀬:広島、長崎への核攻撃を蒙った、日本は世界で唯一の被爆国家です。それにもかかわらず、国民の大多数が放射線に対する知識を欠いています。学校教育の場で、放射線について正しい知識を教えるべきだと思います。福島原発事故によって、1人の死者、重傷者も発生していません。原発は安全です。
元谷:今の日本にとって、経済政策として最も急務なのが原発の再稼働です。事故を起こした福島第一原発の原子炉は、40年以上も前にアメリカのゼネラル・エレクトリック社によって設計された古い型のものでした。日本製の女川原発は、福島第一原発よりも震源地に近い位置にあったのに、地震にも津波にも事故を起こすことがなかった。むしろ千年に一度の大地震と大津波でも、日本の原発の安全性が証明されたとも言えます。原発の安全審査は、原子力規制委員会からの追加資料提出要請などで遅々として進まない。そもそもは、菅直人首相が脱原発を目指すために、再稼働を認めないことを意図して作ったような委員会です。メンバーを総入れ替えして、一日も早く原発の再稼働を行わないと、日本経済に大きなダメージを与えてしまいます。今でも原油や天然ガスの購入に毎年4兆円以上の税金が無駄に出費されているんです。
加瀬:いまOPECが産油制限で原油価格をさらに釣り上げていますね。これにより石油はもとよりガソリン代や電気料金が高騰して、家計にだけでなく、日本の国際競争力に大きなマイナスを及ぼします。いまこそ原発を再稼働すべきです。 元谷:安全性が確認された原発は、どんどん再稼働すべきです。また十分に安全性が担保されている小型原子炉が開発されたと聞いています。そうしたものもエネルギー安全保障政策という観点から、将来のエネルギー確保のためにも研究開発をしっかりとしていかなくてはならない。「原発NO!」と言ってるのでは、米国や中国などにどんどん遅れをとって日本は弱小国になってしまう。
加瀬:日本は原発を嫌って敵視しているために、世界で電気料金が最も高い国となっています。電気こそ、国力の源です。原発を否定するのは、日本が経済は強力な国であったのに、日本という鬼が金棒を取り上げるようなことです。ありがとうございました。